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東京地方裁判所 平成11年(ワ)15034号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 瀬戸和宏

被告 野村證券株式会社

右代表者代表取締役 氏家純一

右訴訟代理人弁護士 星野健秀

主文

一  被告は、原告に対し、一〇三五万八三七八円及びこれに対する平成一一年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、二八二一万二四〇七円及びこれに対する平成一一年七月二四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  前提となる事実(以下の事実は、当事者間に争いがない。)

1  原告は、昭和五五年、被告柏支店に中期国債ファンドコースの取引口座を開設し、昭和五七年六月には丸の内支店に取扱店を変更し、被告を通じて株式等の証券取引を継続的に行って来た者である。原告は、平成五年四月には、上場株に比較して株価変動幅が大きいとされる店頭登録会社の株式の取引も開始した。

そして、原告は、平成五年九月には、当時原告を担当していた被告従業員西本純の勧誘を受け、ワラント取引を開始した。その最初の取引は、東急ストアワラント八〇ワラントの買付(受渡代金四八五万五三〇〇円)であったが、三か月足らずの間に三二〇万円余り、投資資金の約六六パーセントに及ぶ損失となった。

原告は、平成六年三月ころ大津市に転勤となったが、平成七年四月に、西本の勧誘により、二回にわたりニチレイワラント合計一〇〇ワラントを五・〇〇ポイント及び五・二五ポイントで買い付けた(受渡代金合計二一三万円余)。

2  平成七年五月下旬、西本の転勤に伴い、被告従業員林佳一が原告の担当となった。

林は、同年七月ころ、原告が先に購入した右1のニチレイワラントについて、値上がりが期待できないので、たとえ二・五ポイントでも売っておいた方がいいのではないかとその売付を勧誘し、承諾を得た。このニチレイワラントの取引により、原告は、三か月足らずの間に約一一〇万円、投資資金の約五一パーセントに及ぶ損失を被った。

その後、原告は、林の勧誘により、(一) 同年一一月二日住友シチックスワラント一〇〇ワラントの買付(受渡代金一〇七三万円余。売付は同月一〇日。九四万円余の益)をしたのを皮切りに、次のとおり、平成八年四月三日及び四日の伊藤忠燃料ワラントに関する後記二1(一)の本件取引<1>及び<2>に至るまでの間に、六銘柄のワラントを売買した。

(二) 平成七年一一月一〇日東亜建設工業ワラント二〇〇ワラントの買付(受渡代金一一〇九万円余。売付は同年一二月一日。九万円余の益)

(三) 平成七年一二月一日クラレワラント三〇〇ワラントの買付(受渡代金一二二四万円余。売付は同月二七日。三五六万円余の益)

(四) 平成七年一二月二七日伊藤忠燃料ワラント四〇〇ワラントの買付(受渡代金一九四九万円余。売付は平成八年二月一五日。三五六万円余の益)

(五) 平成八年二月八日三菱石油ワラント七〇ワラントの買付(受渡代金三〇九万円余。なお、売付は、後記3のとおり、福地敬一の勧誘により六月三日され、一一一万円余の損となった。)

(六) 平成八年二月一五日三菱石油ワラント四四〇ワラントの買付(受渡代金二二二一万円余。売付は同年四月三日。二七三万円余の損)

(七) 平成八年二月一五日日本特殊陶業ワラント一〇の買付(受渡代金七二万円余。売付は四月二六日。一万円余の益)

3  平成八年五月、林の転勤に伴い、被告従業員福地敬一が原告の担当となった。

福地は、同年六月三日、原告に対し、前記2(五)の三菱石油ワラントを売り付け、ユニデンワラントを買い付けてはどうかと勧誘し、原告の承諾を得た。そして、後記二1(二)の本件取引<3>ないし<6>の取引が行われた。

二  原告の主張

1  原告が、本訴において損害賠償の対象としている取引は、被告とのワラント取引の全てではなく、平成八年四月から七月にかけて行った次の取引である(以下、個々の取引を「本件取引<1>」等といい、その全てを「本件取引」と総称する。)。

(一) 伊藤忠燃料ワラントの買付(被告従業員林が勧誘)

月日   数量  単価      買付額

取引<1> 四月三日 二五〇 一三・二五 一七八二万九五三一円

取引<2> 四月四日  三〇 一一・七五  一九〇万五二六二円

(二) ユニデンワラントの買付(被告従業員福地が勧誘)

月日   数量  単価      買付額

取引<3> 六月三日 一〇〇  四・五   二四三万二二五〇円

取引<4> 六月四日 一〇〇  四・五   二四六万一五〇〇円

取引<5> 六月一〇日 六〇  四・五   一四九万〇四〇〇円

取引<6> 七月五日  四五  四・五   一一三万〇四五六円

2  本件取引の違法性1

(一) 原告は、自らのワラント取引の経験から、ワラントについては売り時が分からないのでその取引を止めたいと考え、前記前提となる事実2(六)の平成八年二月一五日の三菱石油ワラントの買付の勧誘を受けた際に、その旨を林に伝えた。林は、原告のこの意向を受けた上で、原告に対し、本件取引<1>及び<2>のワラントの購入を勧めた。また、林の後任者である福地も、原告の右意向を承知した上で、原告に対し本件取引<3>ないし<6>のワラントの購入を勧めた。

その勧誘に当たっての要点は、原告ではなく林や福地がワラントの売り時を判断する、ということであった。

(二) 売り時が分からない者に対し、証券会社の従業員が「売り時はこちらで判断します」との旨を伝えてワラントの購入を勧誘することは、第一に、原告の判断によらない取引を勧誘することになり、一任取引と見ることができる。第二に、それは、「売り時はこちらで判断できるから大丈夫です。今購入すべきです。」いう意味であり、断定的判断の提供と同趣旨である。第三に、被告従業員も真実は売り時を判断できないのに売り時を判断できるとして勧誘したとすれば、虚偽事実を告げた勧誘というほかはなく、やはり違法と言わざるを得ない。

(三) いずれにしても、原告としては、本件取引<1>ないし<6>のワラントの取引は、被告が売り時を判断することを前提に勧誘されるままに購入したのであり、自己の自由な判断による買付ではない。このような勧誘は、顧客の投資判断過程に不当な重大な影響を与える行為であり、或いは虚偽事実を告げた勧誘であるから、違法である。

3  本件取引の違法性2

福地が本件取引<3>ないし<6>により原告に購入させたユニデンワラントは、勧誘当時、株価が権利行使価格を大幅に下回っていた。したがって、右ワラントは、購入を勧めること自体不適当なものであり、買付勧誘行為それ自体が違法である。

4  原告の損害

原告は、被告の右違法な取引により次の損害を被ったので、被告に対し、その損害の賠償を求める。

(一) 伊藤忠燃料ワラントの本件取引<1>及び<2>につき一九七一万六七五六円、ユニデンワラントの本件取引<3>ないし<6>につき七四九万五六五一円、以上合計二七二一万二四〇七円

(二) 弁護士報酬として一〇〇万円

三  被告の主張(本件取引の違法性に対する反論)

1  違法性1について

(一) 本件取引に際し、原告が林及び福地に対し「ワラント取引をやめたい」と言ったことはない。

(二) 本件取引に際し、原告と林及び福地との間で、林や福地が原告保有のワラントの売り時を判断する、との合意を締結したことは、明示的にも、黙示的にもない。仮に原告が伊藤忠燃料ワラントに関する林の勧誘の際の文言をもって売り時は被告が判断する旨の趣旨に聞き取ったとしても、本件取引に至るまでの原告の投資家としての属性、とりわけワラント取引での大幅な損失の経験、ワラントのリスクに関する理解の程度等からして、原告が林の勧誘文言により自らの投資判断を誤ったとは考えられない。

(三) 原告は、平成五年当時から既にワラントの仕組み等に関する一般的な知識を持っており、ワラントの難しさについても感じており、その点について担当者に質問したりもしていた。そして、何を購入するのか認識した上で本件取引に応じたのであり、被告従業員に商品説明等に欠けるところはなかった。

3  違法性2について

(一) 実勢株価が権利行使価格を下回っていたとしても、購入後株価が上昇したり、その見通しが高まれば、ワラント自体の転売によって利益を取得し得る。購入時に理論価格(パリティー)の水準がどの程度かということはさほど重要ではない。重要なのは、それが購入後に上に動くか下に動くかである。したがって、福地の原告に対するユニデンワラントの勧誘それ自体は何ら違法性を有しない。

(二) 原告は、本件取引<3>ないし<6>に際し、ユニデンの株価が権利行使価格を下回っていることを告げられた上で、自らの意思で四回にわたりユニデンワラントを買い付けている。この取引の一年余り前にも、自らの意思で、ユニデンワラントと同程度の五・〇〇及び五・二五ポイントでニチレイワラントを買い付けたことがある。

四  争点

本件における主たる争点は、原告主張に係る本件取引の違法性1及び2の主張の成否並びに原告の損害額である。

第三当裁判所の判断

一  本件取引の違法性1(原告の主張2)の成否について

1  原告は、ワラントについては売り時が分からないのでその取引を止めたいと考え、その旨を平成八年二月中旬に林に伝えた、林は、原告のこの意向を受けた上で、原告に対しワラントの購入を勧めた、また、その後任の福地も、原告の右意向を承知した上で、原告に対しワラントの購入を勧めた、その勧誘に当たっての要点は、原告ではなく林や福地が、ワラントの売り時を判断するということであった、旨の主張をしている。

2  そこで、まず、林が勧誘した本件取引<1>及び<2>について、検討する。

(一) 原告は、この点について、その本人尋問において、次のとおり供述しており、原告作成の陳述書(甲八)中にも同趣旨の記載がされている。

(1)  原告は、平成八年二月中旬に、林から前記前提となる事実2(五)記載の取引に引き続いて同2(六)記載のとおり同じ銘柄である三菱石油ワラントの勧誘を受けたことから、そのワラントが新規発行の銘柄でないことに気が付いた。そこで、それを契機として、林に対し、「もうワラント取引はやめたい」、「株式ならともかく、ワラントは私には売り時も分からないからやめたい」旨伝えた。これに対し、林は、「私の方でピシャッと売って、益を出して終わりにしましょうというふうにいってくれたと思います」。

(2)  そして、結局、原告はその際に林が勧誘した右三菱石油ワラントを買い付けるに至ったが、その理由は、「この三菱石油を売ったら終わりにしましょうという話が出ましたので、・・・非常に安堵感を覚えました・・・これで多少損はするかもしれないと思いましたけれども、ワラント取引はおしまいにできるんだなというふうに感じたから」である。

(3)  また、平成八年四月に本件取引<1>及び<2>の伊藤忠燃料ワラントの買付をしている点について、次のとおり供述している。すなわち、林から「三菱石油はもう少し時間がかかりそうなので、・・・伊藤忠燃料に乗り換えた方がいいと思いますというお勧めの電話」を受けたので、右取引を承諾した。林は、その際、「三菱石油の損分を埋めて、更に益の出たところでピシャッと売って終わりにします」と言った。また、売り時の判断については、「確か、『私の方で』という言葉を使われたと思いますんで、私としては林さんが判断してくれるものというふうに理解しました」。

(二) そして、証拠(甲一ないし三、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

原告は、本件取引をしたしばらく後である平成八年八月一四日ころ、被告に対し書簡(甲一)を出した。その書簡中では、月次報告書の回答書に署名捺印して返送せよとの文書を受け取っているが、その気になれなかった、その後、同年七月三一日作成のワラント時価評価のお知らせが届き、このまま放置しておくわけにもいかないと思い、回答書は敢えて署名せずに返送することにしたとの記載に続けて、原告が被告の従業員の勧誘の下にした取引に関する様々な思いが記されている。その中に林の勧誘に関する記載がいくつかされており、右(一)(1) ないし(3) のやりとりについても、その一部が明記されている。そして、この林との間のやりとりについては、甲二(同年一〇月二六日付けの原告の被告東京支店総務課長宛書簡)及び甲三(同年一二月二八日付けの同書簡)中でも指摘されている。

こうしたことに、甲四及び甲八をも併せ考慮すると、原告は、右(一)(1) ないし(3) の林との間のやりとりについて、本件取引<1>及び<2>のしばらく後から、一貫して指摘しているものと認められる。

(三) また、原告の投資の傾向、投資の経緯等の面から検討すると、次のとおり判断される。

(1)  前記前提となる事実、証拠(乙二、前掲証人林、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の取引経過等について、次の事実が認められる。

原告の被告を通じての個々の取引の投資額は、平成五年までは、一〇〇万円に満たない購入が多く、多額の場合でも三〇〇万円弱止まりであった。平成五年以降は、五〇〇万円を超える購入がされるようになったが、一〇〇〇万円を超える取引をすることはなかった。前掲証人林も、原告の投資傾向について、「非常に投資に対して慎重な方」と供述しているところである。

ところで、原告は、平成五年九月、西本の勧誘を受けワラント取引を開始したが、その最初の取引である東急ストアワラント八〇ワラントの買付(受渡代金四八五万五三〇〇円)で三か月足らずの間に三二〇万円余り、投資資金の約六六パーセントに及ぶ損失を被った。次いで、平成七年四月に二回にわたりニチレイワラント合計一〇〇ワラントを買い付けた(受渡代金合計二一三万円余)が、結局この取引でも、三か月足らずの間に約一一〇万円、投資資金の約五一パーセントに及ぶ損失を被った。

ところが、前記前提となる事実2で認定したとおり、原告は、林の勧誘を受けて、平成七年一一月二日に住友シチックスワラントの買付をして以降、数か月の間に六銘柄のワラントの売買をした。しかも、投資額の面でも、右住友シチックスワラントの買付で初めて一〇〇〇万円を超え、以後、短期間に一〇〇〇万円を超えるワラントの取引を行い、原告が供述する前記(一)(2) の三菱石油ワラントの買付では初めて二〇〇〇万円を超える取引を行うに至った。

なお、原告は、前記前提となる事実2(一)から(四)までの間の取引の結果八〇〇万円を超える売買益を挙げた。原告も「当時連戦連勝」の状況にあったと供述しているところである。

(2)  ところで、原告は、林の勧誘によりした平成七年一一月以降のワラント取引について次のように供述している。

すなわち、原告は、それまでの東急ストアワラント及びニチレイワラントの取引の経験から、ワラントについてはその売り時を判断することができないとの実感を有していた。ところが、林から新規発行の住友シチックスワラントを特別な計らいでお勧めするとの勧誘を受けたため、証券会社に勤務している知人にも相談の上、取引をした。そして、その後林から勧誘されたワラントについても、新規発行のワラントを特別の計らいで勧誘してもらっているとの理解の下に取引をした。

しかるに、原告は、平成八年二月中旬に、林から前記前提となる事実2(五)記載の三菱石油ワラントの取引に引き続き同2(六)記載のとおり再度三菱石油のワラントの勧誘を受けたことから、それが新規発行の銘柄でないことに気が付いた。

(3)  原告は、その本人尋問において右のとおり供述しているが、平成七年一一月以降前記前提となる事実2(一)ないし(五)記載の取引をした経緯に関する原告の右(2) の供述は、右(1) で認定した原告の投資の傾向、投資の経緯等にも合致し、信用に値するものと判断される。

(四) ところで、証人林は、右(一)で原告が供述するやりとりを原告との間でしたことを全面的に否定する供述をしており、また、乙一八(同人作成の陳述書)中にも同趣旨の記載がされている。

しかしながら、右(三)で認定した原告の投資の傾向、投資の経緯等にかんがみると、新規発行のワラントを特別の計らいで勧誘されているものではないことに気が付いた原告が、平成八年二月一五日に三菱石油ワラントについて初めて二〇〇〇万円を超える多額の取引をし、また、同年四月に、そのワラントを売り付けた上で本件取引<1>及び<2>の取引に踏み切るについては、特別の事情が存在したものと推認されるところである。

そして、右証人林の供述及び乙一八の記載は、当時原告が連戦連勝という状況にあったことを考慮したとしても、右特別の事情について十分に説明することができていないといわざるを得ない。

こうしたことのほか、以上(二)及び(三)で説示したところを併せ考慮すると、、証人林の右供述等はたやすく採用できないというべきである。

(五) 以上(一)ないし(四)で説示したところを総合考慮すると、(一)記載の原告の供述は信用できるものと判断される。

そうすると、被告従業員林は、平成八年二月中旬の二回目の三菱石油ワラント並びに本件取引<1>及び<2>の買付の勧誘の過程において、原告に対し、本件取引<1>及び<2>で買い付けた伊藤忠燃料ワラントについては、その売り時を林において判断することを請け合ってくれたものと受け止められる言動をしたものと推認される。そして、そのような言動は、一任取引及び断定的判断の提供に類似する行為として、違法性を帯びるものといわざるを得ない。

なるほど、原告はワラント取引について後記二3のとおりの知識、経験を有しているが、以上説示した林の勧誘行為の内容等にかんがみると、右判断は左右されないというべきである。

したがって、本件取引<1>及び<2>に関する原告の主張は、理由がある。

3  次に、原告が福地の勧誘によりした本件取引<3>ないし<6>について、検討する。

(一) 原告は、その本人尋問において、平成八年五月下旬に担当者が林から福地に替わった際の状況等について、担当者が福地に替わった後に、林からの引継の状況を把握するために福地に確認したところ、福地は「Aさんはワラントをやめたいと、終わりにしたいと思っておられるというふうに聞いています」と言っていた旨供述している。

(二) しかしながら、原告は、他面において、その本人尋問で、次のとおり供述しているところである。

すなわち、(1)  原告は、福地に対しては、ワラント取引は終わりにしたいと考えている、その旨は林にも言ってある、といったことを伝えたことがないことを自認している。そして、その理由について質問されて、福地が林と同じような姿勢で「前任が勧めた伊藤忠燃料をすぐ換金しましょうと言って、また即半額で売られるようなことになると非常に困ると思ったから」であると説明しているところである。また、(2)  福地から、その引継の直後に本件取引<3>ないし<6>のユニデンワラントの勧誘を受けたことについては、「非常に理解できないという感じ」がした。しかし、その取引承諾した理由は、「後任者の自信を持って勧めてるものに対していやだというような姿勢を示しますと、そのままほうっておかれると言いますか、じゃあこのお客さんはあまり相手にしないことにしておこうというふうな姿勢をとられると非常に困ると思ったから」であるというのである。そして、(3)  原告が問題意識を持っていたというユニデンワラントの売り時については、原告自身「福地さんとはっきり口頭では何も言っていませんが、林さんから引継いでおられるということから、福地さんが売り時を判断してくれるというふうに期待しておりました」というに過ぎないというのである。

(三) また、原告は、福地の勧誘を受けて平成八年六月三日から同年七月五日にかけて四・五〇ポイントのユニデンワラント三〇五ワラントを七五〇万円近い金額で買い付けたが、前掲乙二によれば、その取引の資金は、取引<3>については前記の三菱石油ワラント七〇ワラントの売付、取引<4>については日本ベアトレンドの株式の売却、取引<5>についてはチンリンモーターズの売却の代金等をもって充てられたものと推認される。そして、原告本人の供述によれば、このような福地の勧誘に応じた理由は、右(二)(2) の如きものであるというのであり、しかも、原告が問題意識を持っていたというそのワラントの売り時についての判断者や、ワラント取引に関する自らの意向に関しては、右(1) 及び(3) のとおり、原告が福地との間で直接やりとりをしたわけではない旨を、原告自身認める供述をしているところである。

(四) ところで、前記一2(二)で認定したとおり、平成八年八月一四日ころ原告が被告に対し出した書簡(甲一)中には、林の勧誘に関する記載がいくつかされているが、福地の勧誘行為については、それを問題とする記載は格別されておらず、また、甲二(同年一〇月二六日付けの原告の被告東京支店総務課長宛書簡)及び甲三(同年一二月二八日付けの同書簡)中においても同様である(甲一ないし三によりこれを認める。)。

(五) 以上説示したところを総合考慮すると、原告が供述する「もうワラント取引はやめたい」という考えが原告の確固たる意思として林を通じて福地に対し伝えられ、そして、それを受けて、福地が、原告とのやりとりの中で、売り時の判断を自らにおいてすることを原告に対し請け合った、とするには疑問が残るというべきである。

(六) 以上説示したところに、証人福地の証言をも併せ考慮すると、本件取引の勧誘の過程で、原告が供述する「もうワラント取引はやめたい」という考えが原告の確固たる意思として福地に対し伝えられ、そして、それを受けて、福地が、原告とのやりとりの中で、ワラントの売り時が分からないという原告に対し、「売り時はこちらで判断します」という旨を請け合い、一任取引類似の行為をし、また、断定的判断の提供と同趣旨の行為をしたとの事実については、未だ立証が尽くされていないものといわざるを得ない。

そして、本件においては、他に、福地が、原告に対し、顧客の投資判断過程に不当な重大な影響を与えたり、虚偽事実を告げて本件取引を勧誘したことを証する的確な証拠は存在しない。

そうすると、原告の主張2のうち福地に関する部分については、採用できないといわざるを得ない。

二  本件取引の違法性2(原告の主張3)の成否について

1  原告は、福地が本件取引<3>ないし<6>により原告に購入させたユニデンワラントは、勧誘当時、株価が権利行使価格を大幅に下回っていた(四・五ポイント)ので、右ワラントは、購入を勧めること自体不適当なものであり、買付勧誘行為それ自体が違法である旨主張している。

2  しかしながら、前記前提となる事実1及び2で認定したとおり、原告は、平成七年四月に西本の勧誘によりニチレイワラントを五・〇〇ポイント及び五・二五ポイントという低いポイントで買い付け、結局、その取引で三か月足らずの間に約一一〇万円、投資資金の約五一パーセントの損失を被るという経験をしていたところである(原告は、この取引自体については格別問題にしていない)。

そして、前掲証人福地の証言によれば、福地は本件取引<3>ないし<6>のユニデンワラントを勧誘する際、その商品を巡る状況を説明し、その過程で低ポイントであることも説明したこと、これに対し、原告は「最初の取引なんで、福地さんのお勧めに一度乗ってみましょう」と承諾したことが認められる。この点については、原告も、その本人尋問において、「福地さんの方針としてユニデンのロッドを大きくするということについては了承しておりました」と供述しているところである。

また、もともとワラントは、実勢株価が権利行使価格を下回っていたとしても、購入後株価が上昇したり、その見通しが高まれば、ワラント自体の転売によって利益を取得し得るところであり、現に株価上昇の可能性に応じてプレミアム付で売買されているところである(弁論の全趣旨)。

3  また、原告は、前記前提となる事実において説示したとおり、長年にわたり株式等の取引のほか、ワラント取引も経験している者である。そして、こうしたことに、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、東京大学を卒業後三井生命保険相互会社に入社し、本件取引当時その管理職の地位にあった、また、平成三年一〇月から平成六年三月までの新宿支社在勤中は変額保険の苦情処理の仕事も担当したことがあり、ワラントを含む金融商品について、その仕組に関する理解、リスクに関する認識等を十分に有していたものと認められる。

4  右2で説示したことに、右3からうかがわれる原告のワラントを含めた金融商品に関する理解、認識の程度をも併せ考慮すると、福地がした原告に対するユニデンワラントの勧誘それ自体が違法である、との原告の主張3を肯認することはできないというべきである。

そして、他に、原告の主張3を証するに足りる的確な証拠は存在しない。

三  原告の損害(原告の主張4)について

1  以上のところに、乙二を総合すると、原告は、前記一2(五)の林の勧誘により本件取引<1>及び<2>をした結果、一九七一万六七五六円の損害を被ったことが認められる。

2  ところで、原告は、前記二3で説示したとおり、東京大学を卒業後三井生命保険相互会社に入社し、本件取引当時その管理職の地位にあった、また、平成三年一〇月から平成六年三月までの新宿支社在勤中は変額保険の苦情処理の仕事も担当したことがあり、ワラントを含む金融商品について、その仕組に関する理解、リスクに関する認識等を十分に有していたのである。また、証拠(甲一ないし六、乙二、原告本人)に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、平成八年八月以降、伊藤忠燃料ワラントの売付については被告が判断すべきものであるとの考えに固執し、売買最終日の直前である平成一〇年一月一六日に至ってようやく〇・〇一ポイントで売り付けたことが認められる。このような原告のワラントを含む金融商品に関する知識、経験や、伊藤忠燃料ワラントの売付に関する原告の態度等にかんがみると、原告が右林の勧誘を受けて一任売買類似の行為に応じ、右損害を被ったことについては、原告自身にも過失があるというべく、その過失は本件損害賠償額の算定に当たり考慮すべきである。そして、その過失の割合は、右に認定したものの他、本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、五割と認めるのが相当である。

そうすると、原告は、右取引により被った損害のうち、九八五万八三七八円について賠償を求め得ることになる。

3  また、原告は、その損害の賠償を得るために、原告代理人に訴訟委任をしているが、原告の請求の認容額、原告の請求額、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、その報酬のうち五〇万円は、被告の不法行為と相当因果関係にあるものと認めるのが相当である。

三  以上の次第であるから、原告の本件請求については、損害賠償として一〇三五万八三七八円の賠償を求める限度で理由があるが、その余は失当であるから棄却を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金井康雄)

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